「じゃ今日終わったら待っててね」
こっそり話しているつもりだろうが浩次の声は何故かよく聞こえる。
新しくバイトに入った優香ちゃんを誘っているのだ。
「ちょっと浩次、ゆかりにばれたらどうするの」
私は浩次の彼女であるゆかりと仲がいい。
「佳代ちゃんが黙っといてくれればばれねーよ」
浩次の浮気癖は二人が付き合い始めた頃から治まった事がない
別れる様に何度となく言ってきたが、ゆかりは浩次が好きでしょうがないようだ。
同じバイトで浩次の様子を見ている私には何処が良いのかさっぱりだ。
しかし、ゆかりもいい加減頭にきているようで、前回浮気が発覚した時は
「今度はあいつも許さない」と覚悟を決めている様子だった。
今回の浮気がばれれば別れるつもりだろうから、
このままほっといた方がいいのかもしれない
そんな思いでバイト明けの浩次と優香ちゃんの後ろ姿を見ていた。
翌日バイト先から休みのとこ悪いが出勤して欲しいと連絡が入った。
「新人さん無断欠勤なんだよ」
優香ちゃんのヘルプでバイトに行くと浩次も来ていない事が判った。
あの二人まだ一緒なんじゃ…バイトさぼる程ハマッタとか言うなよ…。
夕方バイトが終わる頃に、店長に呼ばれて事務所に行くと刑事が待っていた。
「橘浩次さんをご存知ですね」「…はい」
「柴田ゆかりさんもご存知ですね」「え…はい」
「柴田さんは橘に殺されました、二人と仲が良かったそうでお話を伺いたいのですが」
「ゆかりがですか?」刑事は大きくうなずき少し間を置いて
「橘はすでに逮捕しました。彼には余罪もあるようで今詳しく調べているところです。
彼は普段暴力を振るうような事はありませんでしたか?柴田さんから相談されたことは……」刑事の質問に素直に答え1時間ほどで開放された
彼らは優香ちゃんの所在確認を始めているだろう。
店長にしばらくは休んでいいと言われ、急いで帰宅しニュースを見た。
「橘容疑者は容疑を否認して……交際相手が行方不明に……他にも余罪があるものと…」
寒気がしてきて見るのを止めた。
「浩次の余罪って浮気の数だったりする?」もう声の届かない友人にぽつりと呟いた。
返信する