>>448 金もないのでぶらぶら散歩をしていると、少し前方にしゃがみ込んでいる女の人を見つけた。
嫌な予感がした。近寄ると苦しんでいる様子だ。お腹が大きい。妊婦だ。
もしかしたら陣痛?と思いながら声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
女性は顔を伏せたまま答えない。苦しそうな息遣いと体の震え、滝のような汗から、
とても演技とは思えない。苦しすぎて声が出せないのだろうか?
「救急車を呼びましょうか? 呼びますよ?」
答えられないなら仕方ない。俺は携帯をポケットから取り出した。
その時、女性が初めて声を出した。くぐっもったような、押し殺した声だ。
「・・・交番は・・・近くにありますか・・・?」
交番?俺は疑問に思ったが、すぐ近くにある事を思い出したのでそれを告げた。
「・・・ありがとうございます」
女性は数回深呼吸すると、震えもなくなっていった。
持っていたハンカチで汗を拭くと、だいぶ落ち着いた様子になった。
相変わらず顔を伏せているのは心配だが、体調は戻ったように見える。
ふらり、と女性が立ち上がった。
思ったよりも長い髪が、うつむいた顔を隠してよく見えない。
「親切にしていただいてありがとうございます。・・・また、近いうちにどこかで」
女性は教えた交番の方に歩いて行った。
俺はついて行こうか迷ったが、女性にはそれを許さないような雰囲気があったので
結局声をかけそびれて付いていけなかった。
何だったのだろうか?
なんで交番?
俺は不思議に思いながらも、取り出して手に持ったままの携帯を開いた。
「・・・・・・・」
今度は、俺が滝のような汗をかく番だった。
顔面が蒼白になり、息が荒くなる。気分が悪い。思わずその場にしゃがみ込んだ。
もし、あの時、声をかけていなければ・・・。
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