その日は朝から大家に捕まってしまった
「最近は変な女が出るって噂なのよナイフ持ってるらしいのよ…気をつけてねぇ」
などとひとしきり噂話などを聞かされた。広さの割りに家賃が安いのはありがたいが
1階が大家の住まいで度々こういう話につき合わされるのには閉口する。
この間は隣に越してきた女の子の話だったかな「引越し好きとかなんとか…」
二部屋しかないアパートだがまだ顔はあわせてない。その女の子も俺同様困ってるんだろうな。
帰りが遅くなってしまった コンビニで飯を買い家路を急いだ
俺の住むアパートは住宅街の奥にある。コンビニを過ぎると街灯もまばらで
深夜ともなると、家々からもれる明かりもなくなり本当に暗く不気味だ
「あの…」 急に背後から声をかけられビクッとなってしまった振り返ると若い女だった
「すみません夜道が怖いので一緒に帰っていただけませんか」
震えた声で女が言った。少し不振に思ったが俺ですら怖いのだ、女の子にはもっと怖いよな
俺は「いいですよ」と笑顔を返した。帰る方向は同じようだ
何か話した方がいいのだろうが話題が見つからず
「夜道より知らない男の方が怖くはなかったの?」などと冗談っぽく言ってみたりした
彼女は依然怯えたままで背後を気にしながら
「私はあなたのこと知ってますよ」と言った 次の瞬間、俺の腕をつかんで
「聞こえました?!急ぎましょう」とぐいぐいひっぱり始めた
「ちょっちょっと」俺の事知ってるってなんだよこいつ…気持ち悪いな…あっ
今朝の大家の話を思い出した 変な女ってもしかしてこの女の事か?!と女の方を見た
暗くて顔はよく見えないがバックから何か取り出そうとしていた
まさか?!ナイフ?! そう思った途端、恐怖がこみ上げてきて俺は女の手を振り解いて
駆け出していた 「待って!」 女の声に一瞬振り返ったが暗闇に浮かび上がった
青白い女の顔を見て俺は腰砕けになりながら夢中でアパートに走った
しばらくして振り返ったがついて来ている様子はない
ほっと胸をなでおろしたのもつかの間コツコツと足音が近づいてきた
足を速めれば同じペースで早めてくる「くそ…さっきの女か?!」
俺は必死に走り足音をなんとか振り切ってアパートの自室に滑り込んだ
すぐ鍵をかけ息を潜めて足音がしないか確かめた。遠くからコツコツと足音が近づいてくる!
足音は階段を上がり俺の部屋の前までやってきた、なんなんだよ!くそっ と思ったその時
ガサゴソとなにやらバック漁るような音がして足音が移動し隣の部屋の鍵を開けた
「なんだよお隣さんかよ〜」 確かにあの女はヒールじゃなかったわ…びびり過ぎだな…
翌朝また大家に捕まってしまった
「夕べそのちょっと先で女の子が殺されたらしいのよぉ荷物もないし顔もメッタ刺しで
身元もわからないんですってよぉ」 お隣さんの窓に女が立ってる見た事のない女だ
俺は警察を呼んでくださいと大家に言った。
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