死ぬほど洒落にならないというのは語弊があるが、不思議な話を聞いたので。
営業の仕事で、とある老夫婦の家を訪ねたとき、聞かされた話。
臨死体験ネタなのだが、よくあるパターンの「三途の川」「お花畑」とはひと味違う、興味深い内容なので公表します。
おばさんは過去に、インフルエンザに罹って意識をなくし、生死の境をさまよった経験があるそうだ。
病院の床についた重篤なときに、件の臨死体験をした。ハッと気づいたら、自分は宙に浮かんでいるというのだ。
彼女は直感した。私はいま、霊魂のみとなってしまっているのかも。とすれば、死んでしまったのか?
そのうち、自分の意思とは関係なしに、暗い夜空を飛び始めた。それも漂うってレベルなんかじゃない。高速で空を移動しているのだ。
なにかに引き寄せられるかのように前方へ引っ張られているような感覚がした。周囲は真っ暗な闇。黒一面の空をものすごい速さで飛び続ける。
さすがに怖い、と思った。高速移動した先に、地獄があるのかも……と不安におののいた。
飛行に身をまかせているうちに、徐々にだが闇に眼がなれてきた。
眼下に竹林が広がっているらしい。どうやら竹林の上を猛スピードで飛んでいるようだ。
彼女はさらに眼をこらした。竹林の様子がおかしい。それもそのはず。竹といっても、枝が断ち切られ、幹も中途から切断されている。
鋭利な刃物でナナメにカットされ、まるで彼女が失速し、その上に落ちようものなら、串刺しになるような仕掛けがされているのだ。
落ちるまいと願つつ飛び続けた。長い時間をかけて竹林を抜けると、前方の夜空に光がさしこんだ。
光に飛びこんだ瞬間、彼女は我に返った。気づけば病室の天井が眼に入り、彼女は帰ってこれたとわかったそうだ。
彼女は語ってくれた。物静かで、所作が上品の人だった。
「一時は重体に陥り、お医者さんが家族の者を集め、ダメかもしれないと告げたそうなんです。でも、息子たちはあきらめず、
夜通し私の手を握ってくれていたそうなの。最後の光の向こうで仏様が見えたわ。こうして生還できたのも、
旦那の実家で祀ってある○○(失念)如来のおかげに違いないわ。それほど熱心に信心していたわけじゃないけど、助けてくれたのかもね」
そう言うと、ホロリと涙を見せた。
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