【最凶】埋め間違い【最悪】
「エイホッ、エイホッ、エイホッ……」
静まり返った真夜中、寺に続く石段をのぼる男たちのシルエットがあった。
4人の男が前後2人ずつにわかれ、天秤棒をかついでいるのだ。
天秤棒の中央にくくりつけられているのはタル状の『桶』だった。
今でこそおれの地元の埋葬法は、火葬のみに限られたものだが、30年前までは土葬が残っていた。
子供のころ、母方の母にしても、座棺(タル型の棺桶に、遺体を座らせた姿勢でおさめる)にして埋葬したのを憶えている。
タルの中で寝巻き姿の祖母があぐらをかいた恰好で座り、額には三角頭巾をかぶせてあった。
うっすら眼が開いていた。臨終のあと、遺族らが眼を閉じさせようとしたのだが、すでに硬直が始まっていたらしく、
うまくいかなかったのだ。
遺体を取り囲むようにして、たくさんの菊の花が埋もれるくらい添えられていて、
なんだか菊の花で満たされた風呂に漬かっているようでキレイだった。
ここからは親戚のおっさんに聞いた話。さらに10年以上も前にさかのぼらねばなるまい。
なんでも地元の若い女が亡くなった。ふつうに座棺におさめ土葬した。
3ケ月経ったある日。坊さんが血相をかえて、例の亡くなった女の親元の家に飛びこんできた。
いきなり、坊さんはとんでもないことを言った。
手違いがあって、なんと女の遺体は、全然べつの場所に埋めてしまったというのだ。
しかも先日、その間違った墓の家系の者が亡くなり、明後日にでも埋葬する段となっていた。
そのことがあって、ようやくポカミスに気づいたらしい。
こうしてはおれん!と地元の人は騒然となった。
急きょ、墓堀人となってくれる人夫を募った。そのメンバーに、若き日の親戚のおっさんが含まれていたわけだ。
墓堀りは夜半、みんなが寝静まったころにおこなった方がいいとなった。
なにせ死後3ケ月も経過している。とても棺桶の中は見られた状態ではあるまい。
人夫たちには清酒が振舞われた。穢れを落とすとか、そんなレベルではない。ベロンベロンに酔わせるまで与えられたという。
おっさんもヘベレケの状態で墓場に足を運んだ。そして、例の女が土葬された場所を掘ることに。
…………
…………
…………
女の棺桶を、どうにか掘り起こした。
掘り起こしてすぐ、本当の墓に埋めなおせばそれで解決するのだが、再度、お経を唱える必要があった。
だから遠方の、山の中腹にある寺まで棺桶を担いで行かねばならない重労働が残っていた。
その前に……おっさんを含めた人夫らは酒の勢いも手伝って、棺桶の中を覗きたい衝動に駆られていた。
悪趣味であり、不謹慎な好奇心だろう。よせばいいのに、ついに棺桶のフタを開け、中身を見てしまったというのだ。
「エラいことになっていた。とても口では言えん。とにかくヒドいもんだった。それに臭いが凄まじかった。
酔っ払っていたが、たちまち酔いが飛んだ。もう赤い肉やら白いスープやら、菊の花の腐ったので、
たいへんなことになっていた。あんな色とりどりのヘドロは最悪だ。あの夜の出来事、
おれは死ぬまで忘れんだろう……」と、おっさんはおれに語ってくれた。
気をあらためて、おっさんらは桶を天秤棒にくくり、寺まで運んだ。
桶の中では液体が内壁にぶつかる「チャッポンチャッポン」というイヤな音がひっきりなしに聞こえたという。
寺に続く石段をのぼってるころには、桶の下から粘り気のある汁がこぼれたそうだ。
これにてスレ主、完全にネタ切れ! あとはよろしく。もう知らんわい!
返信する