死人の目から黒い涙
数年前、叔母が十二指腸のガンで亡くなった。 享年53歳。
遺体を家で寝かせて、まる1日経つか経たないかうちに、奇妙な現象が起きた。
叔母の眼から黒い涙がこぼれ出したのだ。
タールのように真っ黒というほどでもない。水分に煤けた黒が混じっているという程度だ。
ところが眼だけではない。鼻や口からも、とめどなく黒い液体があふれてくるではないか。
見るに見かねた家族の者がタオルで拭ってやったものの、時間が経てばまた流れ出してくる。
おそらく身体の穴という穴から流失しているのであろう。
素人考えで腐敗した体液かと推測したが、季節は凍てついた冬。
いくらそばの遺族らがハロゲンヒーターで暖をとってたとはいえ、腐敗するには早すぎた。
そもそもイヤな腐敗臭はしない。たとえるならば温泉街の硫黄臭に似ている。
亡くなる直前、自力で排便できないほど弱っており、不謹慎な比喩だが地獄の餓鬼みたいに、
おなかがポッコリ膨らんでいた。腹腔内にたまった糞尿が逆流したのかとも考えられたが、
とすれば臭いでソレとわかるはず……
葬式慣れした老人衆に言わせると、稀にこんな現象が起きるそうだ。
もっとも、「非業の死を遂げた故人が悲しくて泣いているんだよ」と、医学的根拠に乏しいことを言っていた。
ネットの某サイトで人に意見を仰いだところ、
「死因によっては、遺体の穴から血液や体液が漏れることがよくあるそうなので、
単純に血液と体液が混じったものだったのでは? 静脈の血は黒っぽく見えますし、
死後、時間が立てば、さらに黒ずむこともあると思います」だとか、
「『黒い血』でググってみると、女性の生理時の出血や、病気による吐血または死亡後に、
何らかの組織と血液とが混ざり、黒っぽい『体液』となって出る……ようです」との回答を得られた。
いずれにせよ、死人が黒い涙を流すのはちょっと劇的だ。
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