この世界とは別の宇宙が存在していて、そこに"もう1人の自分"が生きていたら──そんな空想は長らくSFの世界の楽しいお遊びとされてきた。
ところが近年、そうした並行宇宙が最先端の物理学と宇宙論で真剣に議論されている。
宇宙(ユニバース)は1つではなく、多宇宙(マルチバース)があるという考え方だ。
いろいろな多宇宙が考えられている。
私たちの宇宙は約140億年前のビッグバンで生まれて以来ずっと膨張を続けてきたが、私たちから観測できる範囲は、
その間に光が地球まで伝わってこられる距離(宇宙膨張の効果を考慮すると約420億光年)までに限られる。だが、
この限界の先にも空間があり、同様な宇宙がたくさん存在していると考えてもおかしくはない。
さらにいえば、そうしたマルチバースが無限の空間のなかに無数に浮かんでおり、それぞれの並行宇宙では物理法則が異なっているだけでなく、
5次元の宇宙や8次元の宇宙など、時空次元の数まで違っているのかもしれない。
これはとっぴな絵空事にも思えるが、現代物理学の最先端理論のひとつである「ひも理論」などから導かれる描像だ。
ひも理論によると、それぞれの並行宇宙は、星や銀河など物質の配置だけでなく、物質そのものが異なる可能性もある。
私たちの宇宙には電子やクォークなどの素粒子があり、電磁気力などによって相互作用しているが、
別の宇宙ではまったく別の種類の粒子が未知の力によって相互作用しているかもしれない。
そうした並行宇宙のほとんどは生命に必要な元素が安定して存在する条件を欠き、生命が誕生しない不毛の世界だろう。
だが、途方もなく多様な並行宇宙がほとんど無数に存在するので、なかには私たちの宇宙のように様々な星や生命を含む宇宙があっておかしくない。
むしろ、そう考えるほうが理にかなっているというのが、ひも理論研究者たちの考え方だ。
こうした並行宇宙は単なる絵空事ではなく、科学的な考察に基づいており、数学的に厳密で矛盾がないという。
これに対し、宇宙論研究者のジョージ・エリス(ケープタウン大学名誉教授)は異を唱える。
最大の問題は、並行宇宙を決して観測できないこと。
したがって、並行宇宙の存在を実験や観測で証明するのは原理的に不可能だと指摘する。
理論的に矛盾がないとはいえ、検証できないものが実在するといってよいのだろうか?
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