無足明神『ムスッドン』を祀った島 知林ヶ島(ちりんがしま) 1
鹿児島県指宿市の西の沖合に、知林ヶ島なる奇妙な島名の無人島がある。
名前の由来は、島には松が繁茂しており、夜間、付近を航行する船乗りが、風に吹かれてクロマツ林が揺れる音をたよりに航海したことから、
こう呼ばれるようになったのだとか。チリン、チリンと音が鳴ったので知林ヶ島だそうだ。もっとも現在はソテツやビロウの方が多く占めているが。
知林ヶ島はふだん、鹿児島湾にぽつんと浮かんでいるだけだが、干潮時の数時間だけ、長さ約800mの砂の架け橋ともいうべき砂州が現れ、
対岸の指宿市の突端である田良岬から歩いて渡ることができる。その光景はさながらモーセの十戒のごとし。
勤勉なる読者諸兄なら気づかれよう。前スレからたびたび取り上げたトンボロ現象である。
知林ヶ島は戦前、指宿市にある尾掛(おかけ)集落の住人たちが所有する島だった。
住人は島を開墾して農地を作り、島の見張りと管理のため一家族を常駐させ、これを島守としていた。
その後、昭和38(1963)年〜42(1967)年にかけて森村グループの一部である森村産業が、森村学園の林間研修に使う名目で土地を買収し、全島の土地を所有。
これを契機に昭和52(1977)年以降、知林ヶ島は無人となる。
しかし、知林ヶ島を含む鹿児島湾一帯は国立公園に指定されていたため、地形の変更や大規模な建築等の許可が下りない。
森村学園の研修施設建設計画は難航し、放置されることになる。八方塞がりとなった森村産業は、地元の指宿市に対して買収を求め、
平成20(2008)年に3億4千万円で市に売却。それから現在まで指宿市が島を所有する形になったわけだ。
指宿市は砂州が『架け橋』や『絆』を想起させることから、『縁結びの島』としてPRし、今では夫婦やカップル、婚活女子、
家族連れなどに人気の観光スポットとなっている。
……正直、そんなことはどうだっていいだろう。今回、当スレに取り上げた理由は、島に鎮座する神社と謎の石塚に触れたいがためである。
島内には尾掛の住人が開墾に入る遥か以前から神社と石塚があり、何かを祀っていたらしい。ビロウやソテツの中に神道の社があるのはなんとも不思議な眺めである。
神社の祭神は尾掛から勧請された天照大神であろうと推測されている。
問題は石塚である。これは『蛇塚』もしくは『蛇神様の塚』と呼ばれ、かつて『無足明神(むそくみょうじん)』なる神を祀っていたという。
島の看板にはこう紹介されている。
「知林ヶ島は潮風の影響で霜が降りないことから、『宝の島』として戦前から芋や麦などの作物が植えられた。
終戦後、島を開発する際に、たくさんの蛇を殺したため、鼠が大量発生してしまった。結果、多くの作物が食べられ、農家は困り果てた。
そのため約250年前(※元島守である人物が言うところによると、360年前とも)からあった石塚に、蛇を殺した供養として蛇を祀ったところ、
鼠が減って作物が育つようになったといわれている。」
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