人肉を食う僧侶
江戸時代に、死者の人肉を食った増上寺の僧侶の記録が『新著聞集』に記載されている。
あるとき、檀家から葬式の依頼があり、死人が運ばれてきた。
あいにく住職が留守であったため、塔頭の僧侶が葬儀を行うことに。
その僧侶は、伸びきった死人の髪を整えるため、カミソリを手にし剃髪を始めたのだが、
手元が狂って頭の肉を少し切り落としてしまった。
まわりには親族や檀家の人が大勢いて、この失策を咎められては大事と、
僧侶は思わずその肉片を口の中に押し込み、なにくわぬ顔で剃髪を続けた。
はじめは気持ち悪く思った僧侶だったが、口の中に広がる肉汁の美味さに打ち震え、
我を忘れて、その肉を噛み締め、のどを鳴らして飲み込んでしまったのだった。
以来、あまりの美味しさに僧侶は人肉のとりことなり、葬儀のあった晩のたびに
墓を掘り返しては人肉を貪り食った。
欲望が満たされると平静さを取り戻し、己の所業を後悔するのであったが、
数日もすれば、また足は墓地へ向かうのだった。
当初、狐か犬の仕業だろうと思っていた住職も、こう続くと不審に思い、
ある晩こっそりと墓場で見張ることにした。
あろうことか、くだんの僧侶が墓を掘り起こして人肉を食っているのを見つけた。
住職は、その酸鼻な光景を見て愕然とし、その晩は寝ることすらできなかった。
明朝、その僧侶を呼び、昨夜見たことを打ち明けると、僧侶は激しく震えながらも自分の所業を認めた。
そして、かくなるうえはこの寺に置いてもらうわけには行かず、
山にこもって修行をしたいと暇をもらい出ていった。
その後、僧侶の行方は知れないという。
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