戒名の彫られた墓石が投げ込まれている
洋上の火葬場は『タテ』だけではない。北木島の西にも『横辺島』……島民は『ヨコ』と呼ぶ無人島でも遺体を焼いた。
奇しくも『タテ』と『ヨコ』。まるで対で存在するかのような火葬用の島。
コレラによる被害者だけでなく、スネに傷をもつ出稼ぎ労働者までもがここで処理された。
北木島では花崗岩を産出することで古くから知られ、石切り場が至るところにある。
江戸時代の初めごろから明治中期にかけて石材採掘が盛んに行われたそうで、島外から石切り職人が流れてきた。
危険がつきものの仕事だけに報酬は陸でのそれに比べ、ほぼ倍の賃金を得ることができるものの、
職人の多くは刹那的な生き方を好んだ。酒や女にバクチ。中にはやくざ者や犯罪者もいた。
そんな身寄りのない訳ありの者が亡くなると、そこで焼かれた。
むろん遺骨の引き取り手はいるはずもなく、満潮時に波がすべてをかき消していくままにされた。
画像からは確認できないが、今でも一枚岩には焼け焦げた跡が見られるそうだ。
無縁仏となった者を悼んだのか、波打ち際だけでなく、周辺の海底には戒名のついた墓石が無造作に投げ込まれているという。
とはいえ、こんな悲しい歴史がありながら、渡船をチャーターして磯釣りに訪れる人は多い。釣りキチは恐れ知らずだ。
チヌやメバルがよく釣れるという。
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