淵のヌシの正体は化物蟹 隠岐島
島根県の隠岐島には巨大な蟹が怪異をなす伝承があるとの情報をつかんだ。しかも淵に斧を落としてしまうと女神が現われる話なのだ。
なんだかイソップ童話の『金の斧』を彷彿とさせて面白い。
その昔、隠岐島の元屋なる村に年老いた木こりがいた。
ある日、老人は川をさかのぼって、滝の後ろの山中にて木を伐採していると、どこからともなく妙な音がする。
ガシガシと、硬いものが岩を叩くようにして歩いてくる気配。老人は岩陰に身を隠し、息を殺して成り行きを見守った。
ところが音はすれども姿は見えず。やがて滝つぼにザブンと音がし、巨大な水柱が立った。
見下ろすと、滝つぼの中になにやら大きな物体が動くのを見逃さなかった。
老人は動揺した拍子に、手から斧を滑らせてしまった。斧は一直線に滝つぼに落ちていき、水中で鈍い音がした。
謎の巨大な物体は水の深みに消えたものの、しばらくすると、細長いモノが浮かんできた。見れば大きなハサミのついたトゲだらけの腕。
ハサミは流れに乗り、川下へ流れていった。「……してみると、あやつは蟹の化物なのかもしれん。淵のヌシか」と、老人は思った。
さすがに怖くなり、急いでその場から立ち去ろうと腰を浮かした。
「待ってください。どうか怖がらないで」と、どこからともなく凛とした女の声がした。
振り返ると、そこには世にも美しい着物をまとった若き姫君が佇んでいた。姫君は老人が落とした斧を抱いていた。
「おぬし、何者?」
「私は昔からこの淵に住む安永姫と申します。いつのころからか、この川に大きな蟹が住みつき、我が物顔で川を荒らしたせいで、私は囚われの身となり、
あの魔物に服従されてきたのです。ですが、先ほどあなたがこの斧を投げ入れてくれたおかげで、今や魔物は片方のハサミを失い、
淵の横穴の中で痛みでうめいております。あやつにはもう片方のハサミが残されています。どうかこの斧をふたたび投げ入れ、蟹を退治してくれませぬか?」
老人は怖くてたまらなかったが、この美しい姫君を見捨てることは忍びなく、渋々承知した。
安永姫から斧を受け取ると、ふたたび滝の上で待ち伏せした。太陽が西に傾いたとき、さっきまで吹いていた山風がピタリとやんだ。
老人は斧を片手に身がまえた。大蟹が水面に姿を見せたときこそ好機。
しかし大蟹は老獪である。水面に浮上せず、片方のハサミで何度も水底を叩きつけた。衝撃が滝の上まで伝わってきた。
老人は振り落とされまいと傍らの木にしがみついた。斜面は崩れ、老人は木もろとも落ちかけた。
そのとき、大きな岩が崩れ落ちていった。岩は滝つぼに潜む大蟹に直撃した。大蟹は獰猛な唸り声をあげた。
「今こそ絶好機! 斧を!」と、安永姫の声が響いた。
大蟹めがけ斧を投げた。斧は回転しながら滝つぼに落ち、水の抵抗で失速することなく大蟹の腕に命中した。
しばらくして水面が泡立ったかと思うと、トゲのあるハサミがプカリと浮かんだ。老人は勝利を確信した。
滝のもとまで下りていくと、安永姫が姿を見せ、こう言った。「ありがとうございます。おかげで大蟹を退治することができました。
これで川に平和が訪れるでしょう。ぜひともお礼を致したいと思います。何かお望みのものはありますまいか?」
「ではお言葉に甘えて。この島は日照りが続くと、真水がなくなってしまう小さな島。どうか村の者が困らぬよう水をおつかわしください」
「お安い御用。これにて水の心配はいりませぬ。そしてこれから先、私があなたのお命をお守りしましょう」と、安永姫がにっこり微笑むと姿を消した。
次の日、海に近い河口に3mもの巨大蟹の死骸が腹を見せて浮かんだ。村の者は老人の武勇伝を広め、一躍彼は時の人となった。
以来、川の名を安永川と改め、滝のそばで安永姫を祀り、日照りが続くと安永姫に雨乞いした。すると必ず雨が降ったという。
また滝つぼを蟹淵と呼ぶようになった。
民話の部屋 蟹淵の主
http://kanbenosato.com/minwa/kancho_200702.htm... 島根県 : 隠岐日記2008年12月
http://www.pref.shimane.lg.jp/oki_norin/sogo_shinko/memo/08_... まんが日本昔ばなし『蟹淵』
http://www.dailymotion.com/video/xl3eeh_mnmb-%E8%9F%B9%E6... 金の斧wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E3%81%AE%E6%96%...
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