「報道こそがオレの転職」と自負していたフリーのカメラマンがいた。
それが救助や支援の人手を必要とするような凄惨な現場であっても、
たとえ「取材よりも救助だろ!」などと罵声をあびたとしても、
カメラを回し続けることが彼のプロとしてのプライドだった。
そんなある日、彼は路線バスが絡んだ多重事故現場へと派遣された。
現場での救助が続く中、前後をトラックに挟まれたバスが炎を上げ始めたようだ。
いち早く気がついた彼は、カメラを抱えてバスのそばへと必死で走って撮影を始めた。
逃げ遅れてバスに閉じ込められ燃え盛る炎の中で倒れる人、
なんとか彼らを助けようと必死に消火や救助をする人、
どれもこれもが報道ための滅多にないネタにしかみえなかった。
無我夢中で撮影を続ける彼は、警官に注意されても、消防士から邪魔だと怒鳴られても、
ディレクターですら目を背けるような現場で、必死にカメラを回し続けた。
報道こそが今オレがやるべき仕事、オレにしかできない仕事だと言い聞かせていた。
確かに見るに耐えないような酷い地獄絵図だ、だが人のことなどかまってられるか。
どうやらバスはやっと鎮火したようだ。
逃げ遅れた乗客が真っ黒な遺体になって次々と運び出されていく。
事故で歪んだ車体にあの火災では、だれが何をやっても助かりはしまい。
ここまで撮れれば、もう仕事は終わったようなもの。
生死をかけた人々の生々しい映像の出来上がりの評判は上々のようで、
中継車に戻ったディレクターからも「よくやった、局長の表彰もんだ」など、
インカムで褒められたりして、やりとげた充実感に満たされた。
フリーの自分を応援してくれていた彼女もきっと喜んでくれるだろう、
などと考えながら、カメラを片手に回しながら、自分の携帯をチェックしはじめた。
「さっきから何度も彼女から着信してるけど何事なんだ?
タイミングわりーな、滅多にないバス火災のスクープ撮ってる時に限ってこれだよ。
こっちは取材でそれどこじゃないっつーのにさ」などイラつきながらも、
何件も残されたままの留守電の確認をしはじめた。
周りが騒がしくて、留守電で何て言ってるのかよく聞こえない。
え?なんだこの留守電は?えらく慌ててるが!?
突然、青ざめた顔をした彼はカメラをその場に投げ捨てると、
まだ煙を吹いてくすぶっているバス向かって走り出した。
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