10年に発行された『統合失調症と宗教』(星川啓慈・松田真理子共著/創元社)という本は、題名通り、統合失調症と宗教の関連性について、 
 さまざまな角度から考察している。   
 同書の中で、京都文教大学准教授の松田真理子氏は、聖なるものを感じた体験や、幻覚・妄想などの体験を持っている統合失調症の患者たちに 
 インタビューをした経験から、神の声を「聴く」体験を持つ人や、神の姿を「見る」体験を持つ人、その両方を同時に併せ持っている人が 
 多く存在すると語っている。   
 自身の統合失調症の発病の様子を克明に記録した手記『ボクには世界がこう見えていた 統合失調症闘病記』(小林和彦/新潮文庫)では、 
 発病して精神科病院へ入院させられる直前に、さまざまな幻聴や幻視を体験したことについてこう書いている。   
 「僕はこの夜のことは、肉体的苦痛もあったが、人間の心は皆つながっており、ある種の精神状態に入れば誰とでも交信できるという 
 認識を新たにした幸福な体験をしたと思っている。宇宙の真理にまでは触れられていなかったが、それは永遠の謎としてとっておこう。 
 僕はこの晩を境に新しい人間に生まれ変わったことを確信した」   
 同じく統合失調症患者の手記『隠れた薬害? 精神分裂病』(夏来進/文芸社)の内容は、さらに宗教との類似を思わせる。   
 鹿児島ラ・サール高校から東京大学医学部というエリートコースを歩んでいた著者は、研修医時代に、「私は神だ」「お前は祝福された存在だ」 
 「私は、お前をより高い次元の素晴らしい所へ導くためにやってきたのだ」といった声を聞く。   
 その声に突き動かされるように著者は自分なりの宗教観を編み出し、その考えを街角に立って話すようになった。 
 そのうち、そんな彼の話に耳を傾け、お布施をしようとする人まで現れたという。   
 しかし、興奮状態から医学部の教授と乱闘事件を起こした彼は、精神科病院に連れて行かれ、精神分裂病(当時の呼称)と診断される。 
 大量の抗精神病薬を投薬され、3カ月の入院をさせられた彼が退院して、かつての宗教活動の仲間に「すみませんでした。私は精神病でした」 
 と告げると、仲間たちは呆然となったという。
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