万能理論が科学的な究明をストップさせる例をもうひとつ紹介したい。
“幽霊”の存在である(詳しくは石川幹人『「超常現象」を本気で科学する』(新潮新書、2014)を参照)。
“幽霊”はある程度の頻度で目撃報告があるので、経験的科学の究明対象になりえる。
目撃パターンの調査を通じて“幽霊”の特徴や性質を明らかにできるからである。
その目撃報告では、「誰もいない隣の部屋から壁をノックする音がして、行ってみると白いベールをまとった怪しい影がスーッと壁を抜けて行った」などの標準パターンがある。
この報告には、科学的知見から明らかな矛盾がある。
なぜ壁を抜ける“幽霊”が壁をたたけるのだろうか、また白いベールが服ならば、なぜ壁を抜けられるのだろうか。
この問題に“幽霊”肯定論者は、しばしば万能理論で対応する。
“幽霊”はベール状の体をもち、半分は物質でもう半分は物質でない性質があるという。
壁をたたきたいときは自分の意志で物質化し、壁を抜けたいときは自分の意志で物質でなくなることができるという。
これは「何でもできる超越的な存在」を意味する、幽霊版の万能理論である。
万能理論は、“幽霊”とは何であるかという究明を排除すると同時に、どこに現れても“幽霊”の意志のあるがままとなり、将来を予測する手がかりとなりえない。
結局のところ“幽霊”は、科学の視点からは心理的な幻覚のたぐいとみなされる。
これは、科学が“幽霊”を排除しているのではなく、将来を予測できない概念が、科学的には価値がなく存在しないに等しいからである。
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