クロ宗の死の儀式は存在したのか? その考察1
「クロ宗のもんはな、人間の生肝をとって食(た)もッちいわるッと。病人が死にかかるとな、
夜中に家族のもんも医者もみな人払いをしてな、クロのサカヤと病人と2人だけになってな、何かすると。
それでな、人を病人の部屋へ入れてきたときにはな、病人の身体は白い布でぐるぐる巻きになっとって、
必ずもう息はひきとっておって、床下は血だらけじゃッどよ。
そいで、今度は部屋の灯を消してよ、クロ宗の連中が集まって真っ暗ななかでお通夜みたいなもんがあるんじゃが、
どんから(けれども)そのお通夜みたいなもんは並普通のとは違うて、生魚が出るんじゃッど。
山部落じゃ病人が重くなるというと、大きな魚を買いに出らんならんと。その魚のワタでもとって床下の血をどうとかしてしまう話もあッがよ。
またな、水を沢山使うし死人の身体を洗うとか、水で血を流すとかちゅう話もあッど。
御透視役ちゅうのは、死人を天国とかへ連れて行く役だとかで、剃刀役ちゅうのは、死人の頭を剃ッとか、
生肝を切りとッとかちゅう話もあッど。真っ暗なお通夜みたいなもんに集まるクロの連中の下駄は、みんな裏返してあッと。
その下駄の返し方にも、二段三段の仕掛けがあると。それで朝が来りゃ、真宗のお寺でもういっぺん、立派な葬式をやると。
その仏式のはな、盛大じゃとも、クロを隠すための恰好つけだけじゃと。クロのもんはな、年の暮頃に肉で酒盛りをやると。
子供が生まれると、水で洗ってな、生肉を口に押しつけてやると」
……『鬼無鬼島』より抜粋 太平次が早子に語って聞かせたクロの噂
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