おれには……生まれてくる直前の記憶がある。
暗い縦穴を落下していく。落下しながら、不思議と恐怖は沸かない。
ただ「なんだよ……またやり直しなよ」と、諦めにも似た感情が胸を満たしている。
はるか頭上で誰かが言った。エコーがかかっていた。「今から出会う人たちが、今回、おまえの両親となる人だ。
おまえはそこで再生するのだ。しっかり生きるのだぞ」余計なお世話だと思った。
縦穴の向こうに光が差した。おれは光に向かって飛び出した。
暗闇から眼を醒ましたおれが最初に見たものは、茶色い天井だった。蛍光灯の笠も見える。
その眩しい灯りに、覆いかぶさるようにして、2つのシルエットが現われた。
男と女の頭部が逆光になって影絵になっているのだ。
やがて女が言った。「○○ちゃん、今から△△へ買い物に出かけるから、大人しく留守番してるのよ」
次に男が、「お利巧にしてるんだぞ」と言い、右手が差し出され、おれの頭を撫でた。
どうやらこの2人が、おれの両親となる人物らしい。2人は部屋を出て行き、静寂だけが支配した。
おれは周囲をよく観察しようと、横を振り向いた。柵だ。柵に囲まれた狭い空間に、おれは寝かされていた。
地面を見た。金太郎のイラストがいくつも見えた。マサカリをかついだ金太郎、
熊に跨った金太郎、ウサギとかけっこする金太郎……おれはベビーベッドに寝かされているようだ。
生まれながらにして、ベッドのイラストを『金太郎』と認知するおれの能力……
おれはいかにしてその力を失っていくか、次回、その原因が明らかにされる!
……To Be Continued!
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